こんにちは!ひとぅみです
先日、患者さんからこのような質問を受ける場面がありました。
貧血のお薬をいれますねー
(ESA製剤:赤血球造血刺激因子製剤を投与)
ねーね、貧血ってことは鉄分が足りないんでしょ?
何食べたらいいのかなー?
その場でポケットブックで確認するが、どこにも鉄分を補う食品の記載がない!え?普通にレバー?ほうれん草?とかかな
うーん、レバーやほうれん草とかですかね?
でも、ほうれん草とかにはカリウムも含まれているので、
適度な量にしてくださいねー、
詳しく知りたければ、栄養士さん呼びましょうか?
そうかー、いや、栄養士さんはいいよ。
おそらく患者さんは、わざわざ栄養士に聞きたいほどは困っていません。
でも貧血予防にはどんな食品で鉄分を補えるのか気になったから質問されたのだと思います。
それに対して、私の回答はなんとも曖昧な感じで終わっていますね。
きちんと患者さんに看護師として情報提供ができなかったモヤモヤが残りました。
また患者さんへの返答前に愛用のポケットブックで確認していましたが、食事での貧血管理に関する記載がないことも気になりました。
そこで今回は「透析患者の貧血対策として食事から鉄分は補えるのか?」について調べたことをまとめたいと思います。
なぜ透析患者は貧血になりやすいの?
透析患者の腎臓は機能が低下しています。
ということは、腎臓の機能のひとつである「赤血球をつくる指令をだすエリスロポエチン(EPO)の産生」も低下します。
すると、身体に必要な量の赤血球をつくりだすことが難しくなります。
これをエリスロポエチン欠乏による貧血で、腎性貧血といいます。
透析患者さんの貧血の原因はさまざまらしいけど、
腎性貧血が大半を占めるらしいよ!
さらに、腎臓から赤血球をつくる指令が少なくなることに加えて、栄養不足や鉄欠乏、出血傾向、赤血球の寿命の短縮という背景があります。
そのため、透析患者は貧血状態になりやすいということになります。
透析患者の目標ヘモグロビン値は?
透析患者の維持すべき目標ヘモグロビン値(Hb)は週初めの採血で、10mg/dl以上12mg/dl未満とされています。
複数回の検査でHb値10mg/dl未満となった時点で腎性貧血の治療を開始することを推奨されています。1)
透析患者の貧血対策
食事で鉄分は補えるの?
一般的には鉄分の多く含む食品を取ることで、鉄分を補うことは可能です。
しかーし!!
鉄分を多く含む食品には、透析患者の天敵のカリウムやリンも多く含まれています。
入院時に提供される透析食に含まれる鉄は1日平均7.5gといわれ2)、健康な男性は1日7~7.5mg、女性は1日が多く含まれる食品6~6.5mgが目安になるようです。(妊娠・授乳期の女性は除きます)3)
また、透析患者に推奨されるカリウムは1日2000mg以下で体重換算で考えると、30mg/㎏/日以下になります。
たとえば、体重50㎏の患者なら1日1500mg以下になります。
透析患者はカリウム排泄量が低下し、体内にカリウムが溜まりやすく、高カリウム血症になりやすいです。
カリウムが体内に高い状態や低い状態(低カリウム血症)のどちらの場合も不整脈を誘発しやすくなり、体内のカリウム値を正常に保つことは大切です。
さらに、透析患者に推奨されるリンは1日700~1100mg程度が目安といわれています。4)
透析患者は尿からリンが排泄されず、体内に溜まりやすい高リン血症になりやすいです。
高リン血症は血管の石灰化を進めて、心不全や足の壊死を招く可能性があります。
それを踏まえて私が提案した鉄分が多い食品をみてみると、
・生の肝臓(ぶた)100gあたり 鉄分:13mg カリウム:150mg リン:340mg
・生のほうれん草100gあたり 鉄分:2mg カリウム:690mg リン490mg
これはそれぞれの食品100gあたりでみていますが、実際食べる量は100g以上になりますよね。
つまり、鉄分を多く含む食品を摂取すると、同時に透析患者の天敵であるカリウムやリンも多く摂取してしまい、透析患者自身が食事で鉄分を補うのは難しいことがわかりました。
そこで患者さんへの伝え方の一つの例としては、
食事で鉄分を補うことは、鉄分を多く含む食品を食べることになりますね。
でも、鉄分を多く含む食品にはカリウムやリンも多く含まれています。
なので、鉄分の管理は薬物療法で行ったほうがいいのですよ。
でも、せっかく鉄分を管理するために食事を気にかけて頂いているので、
方法としてはバランスの良い食事をこころがけることが大切ですよ。
バランスの良い食事ってどんなの
私よりも食事に詳しい栄養士にお話しを聴いてみますか?
というように声かけをしても良いのかなと思います。
これは看護師として説明できる範囲の情報提供をして、それ以上の細かい情報提供は専門家である栄養士へ依頼に繋げていくことで患者への支援をする流れとなっています。
透析患者の鉄分管理は、薬物療法で!
先程説明した通り、食事では鉄分コントロールは難しいため、透析患者の鉄分管理は薬物療法が主になります。
そこで、鉄分管理に関連する薬物もまとめておきます。
赤血球造血刺激因子製剤
赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は、腎臓で産生が少なくなったエリスロポエチンを補う薬として投与されます。
鉄剤
赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与により、ヘモグロビンの合成が促進され、鉄の必要量が増します。
そのため、検査結果から必要な鉄分を鉄剤として投与されます。
具体的な治療は以下のようです。
・ESA+鉄剤:なし、目標Hb値以下、血清フェリチン値:50ng/ml未満
⇒ESA投与に先行した鉄補充療法
・ESA:あり、目標Hb値以下、血清フェリチン値:100ng/ml未満かつトランスフェリチン飽和度(TSAT):20%未満
⇒鉄補充療法5)
まとめ
今回は患者さんからの「食事で鉄分を補うことはできるのか」という質問を受け、私が答えられなかった経緯から、透析患者の食事における鉄分管理についてまとめてみました。
結論は食事での鉄分コントロールは難しいため、薬物療法が最適であることがわかりました。
次に患者さんから同じ質問を受けた時は答えられるようにしたいです。
では、また★
さいごに
ここに記載されていることは、なるべく正確な情報を元に記載したつもりです。
ただしこの情報の利用により発生した、いかなる責任も負えませんのでご了承ください。
参考文献
1、5)長谷川素美,透析ケア,第26巻2号,メディカ出版,2020.2.1
2)腎性貧血の改善と予防のための「バランスのよい食事」は具体的に各食品をどのくらい摂取するように指導すればよいですか? 中外製薬医療関係者向けサイト
3)中村丁次,ずっとキレイに、ずっーと健康 栄養素図鑑と食べ方テク,朝日新聞出版,2017.10.10第3刷